いい話

小澤征爾さんのこと、その2

「世界のオザワ」小澤征爾さんが亡くなられてから、連日テレビのニュース番組や新聞の誌面を賑わせています。

そこで聞こえてくるエピソードから感じるのは、彼の人間力の素晴らしさ。

個性あふれるオーケストラの団員の心を、わしづかみにする。団員は皆「小澤さんのために全力を出したい!」と心から願う・・・。

その逸話のひとつに、感動しました。

それは、新聞の編集委員の女性から見た、小澤征爾さんの横顔。

「小澤征爾さんはとても涙もろいマエストロだった。小澤さんの涙をいったい何度見たことだろう。嬉しいときも、悲しいときも、悔しいときも、子供のようにすぐに大きな目にいっぱい涙をためた。

2000年の夏、長野県松本市で開かれていた“サイトウ・キネン・フェスティバル松本“の楽屋でインタビューしていた時にも、思いがけず小澤さんの涙を見た。

トン、トンとドアがノックされ、『は〜い』という小澤さんの返事に促されて小さくドアが開いた。若い男女が恐縮しながら、腰をかがめるように入ってきた。二人は夫婦で、小澤さんとはどうやら初対面のようだった。

女性が小澤さんに写真を見せた。『私たちの娘です』。車いすに乗った小学生ぐらいの笑顔の女の子が写っていた。

『あ、この子!うんうん、覚えてる。僕のことを訪ねてきてくれたことがある』と、小澤さんは破顔一笑。

控えめな口調で、女性が『亡くなったんです』と言った。

『ええっ!』と言う小澤さんのあまりの驚き方に、夫婦は驚いたようだった。小澤さんの顔がすぐにぐしゃぐしゃになり、無言のまま、涙がぼろぼろとこぼれた。『クーッ』と声が漏れた。

『この子は本当に小澤さんのファンでした、小澤さんの演奏を聞くことに生かされていたので、一言御礼が言いたくて』。

二人が語るほどに、小澤さんの嗚咽が大きり、しゃくりあげてゆく・・・。

そのあと部屋を出て、ファンのサインに応える小沢さんのまぶたは赤く重く腫れたままだった。ファンの人たちはさぞかし不思議に思ったことだろう」

ひとりの小さなファンが亡くなったことに、ここまで大きく心を揺さぶられずにいられないって、何という心の清らかさなのでしょう!

それが、世界のオザワと言われる一番の所以だったのではないか・・・と改めて思いました。

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