音楽評論家であり、随筆家の吉田秀和さん。亡くなられてもう10年になるとか。吉田さんの、演奏会のあと新聞に載る批評は、厳しさの中にも温かい愛情に溢れていました。
その吉田さんが、自ら館長を務めた水戸芸術館で、ある時「事件」があった。
2012年1月20日、水戸室内管弦楽団の公演で、指揮者の小澤征爾さんが体調を崩し、直前になって降板。突然のことに、観客から怒号が飛んだ。館の職員が舞台に立ち、指揮者なしで演奏することを告げたが、場の空気はおさまらない。
そうでしょうね〜。小澤征爾さんの指揮を楽しみに来た人にしたら、とても納得できないですよね〜。
その時、客席の吉田秀和さんがゆらりと立ち上がった。(ゆらりと、という表現、絶妙ですね)
どよめきと戸惑いの拍手がまばらに起こる。
マイクを渡された吉田秀和さんは、聴衆に目をやり、明瞭な滑舌で語り始めた。
小澤さんは舞台に立てない。さてどうする?楽員全員に尋ねたところ、全員が「演奏したい」と答えた。
それを踏まえて吉田さんは切り出した。「小澤が出なくて残念だけど、演奏家たちがやるっていうなら、それを聴いてやろう。そうお考えの方は、どうぞお残りください」と。
感情的なヤジに代わり、ゆっくりとわき起こった温かな拍手が会場を満たした。それは、吉田さんの死の4ヶ月前のことだったといいます。
「残ってくださいとも、帰ってくださいとも、私は言いません。決めるのはあなたです」・・・これが、吉田秀和さんが聴衆に届けた最後のメッセージとなった。
・・・なんともいえない余韻の残る記事でした。人は亡くなっても、そのメッセージは深く心に残るのですね〜❤️
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